この外来の特徴

この甲状腺外来について

  私は伊藤病院をはじめ、大学、離島の八丈島などで、約25年以上の間、甲状腺疾患の診療に携わってきました。甲状腺疾患はとても狭い領域で、専門に診療している医師が少ないこと、特に外科系の甲状腺専門医が非常に少ないことを実感しています。また東京、横浜には甲状腺の専門病院、専門医のいる施設はありますが、専門医のいない地域のほうが多いのが実情です。

 東京表参道の伊藤病院は、都心はもちろん、関東地域、さらには全国から甲状腺の病気を持つ患者さんが受診する病院として有名です。伊藤病院では診療に携わる医師に限らずすべての病院関係者が甲状腺の専門家であり、いかにして不要な検査を省き、的確な診断と治療を提供できるかを日々検討しながら診療を行っています。よい病院であるがために(来院された方はご存知と思いますが)、とにかく混んでいて患者さんで溢れています。このため、非常に待ち時間が長くなり、患者さん一人に対する十分な診療時間を割く事が難しい状態となっています(私も伊藤病院の外来診療では、短い時間で多くの話しをするためにものすごい早口になっていました)。また検査は分業になっており、効率よく行えるように工夫されていますが、あまりに混んでいるため細胞診検査などは1-2ヶ月先の予約となっています。

 甲状腺疾患は極めて専門性の高い領域です。伊藤病院で診療していると、大きな病院や大学病院でいろいろな検査を受けたけれどはっきりした診断はわからないとか、とにかく手術だといわれてたいへん困惑して前の病院から逃げるようにして来院される患者さんが少なくありません。甲状腺疾患の診療については有名な専門病院に患者さんが集中してしまう現在の状況も理解できます。

 

 この甲状腺外来の特徴

1) 初診時、できるだけ一回の診察で診断する

 甲状腺疾患の診断には、視診や触診のほかに、甲状腺ホルモンなどを調べる血液検査と、腫大している甲状腺のエコー検査が必須で、これらによりほとんどの甲状腺疾患の診断が可能です(伊藤病院でも同様の方針で診療しています)。時に甲状腺のしこり(腫瘤)では、診断を確実にするために細い針をしこりに刺して少量の細胞を採り、顕微鏡で診断する穿刺吸引細胞診が必要となります。この外来では必要と判断すればこの穿刺吸引細胞診を初診時に行うことにしています。初回の受診から1週間後には特殊な血液検査や細胞診の結果もすべて判明するため、正確な診断とそれに基づく今方針を説明相談したうえで、必要な場合には治療を開始することができます。

2) 外来受診の間隔はできるだけ長く

 甲状腺疾患では生涯にわたり経過を診る必要がある患者さんも多く、頻繁な受診を医療機関から求められ、遂には通いきれなくなり放置してしまっている場合もよくみられます。現在治療は不要で定期的な経過観察を要する患者さんや、また薬の治療が必要であるものの十分に安定しているバセドウ病・橋本病・手術後・アイソトープ治療後の患者さんでは、負担が少なくなるように、安全と思われる範囲でできるだけ受診の間隔を長くしています。甲状腺疾患診療の特殊性や経過を熟知していることで長い受診間隔の設定が可能となります。

3) 検査結果だけを聞きに来院する必要がないように配慮

 甲状腺外来では血液の甲状腺ホルモンのチェックは欠かせない検査です。しかし血算や肝臓機能などの一般血液検査より時間がかかります(甲状腺ホルモンでは約1.5-2時間、特殊なものでは3-7日)。この甲状腺外来ではできるだけ患者さんの受診回数を少なくすることを目指しているので、外来を設けている病院によって異なりますが、血液結果だけを聞きに来院しなくてもよいように工夫しています。たとえば、定期的な外来受診では、後日、検査結果を手紙やはがきでお知らせして甲状腺機能の評価やくすりの指示をしています。 ただし初診の場合は、結果,・診断と今後の方針を直接患者さんによく説明するために、初診後にもう一度来院していただきます。

4) 必要があるときは他の施設とも協力して診療を

 甲状腺疾患で受診されたほとんどの方は、この外来の診療で十分対応できます。しかしときには手術が必要であったり、診断のためのアイソトープ検査、あるいは特殊な治療であるアイソトープ治療が必要なこともあります。手術については、伊藤病院など甲状腺外科専門医のいる施設にお願いしています。アイソトープ治療は極めて特殊な治療なので、経験豊富な伊藤病院にお願いしています。

5) 甲状腺のしこり(腫瘤、腫瘍)に対してもきちんと診療します

 甲状腺疾患の専門医は内科の先生が多く、大部分の甲状腺外来は内科医が担当しています。バセドウ病や橋本病などの甲状腺機能に異常が出る病気については、甲状腺内科医のほうが甲状腺外科医よりも学問的には詳しいことが多いのですが、”甲状腺のしこり(腫瘤、腫瘍、癌)”の診療については圧倒的に外科医のほうが詳しいといえます。別のページにも述べますが、甲状腺のしこり、腫瘤の診かたは他の臓器とは大きく異なり、おそらく甲状腺を専門に勉強して経験を重ねてきた外科医でなければ適切な診療はできないと思います。では、腫瘤以外の甲状腺疾患は甲状腺外科医は診られないのか?というと、そんなことはありません。実際、伊藤病院の外来では甲状腺腫瘤の診察は原則的に外科医が担当しますが、その他の橋本病やバセドウ病についても外科医は甲状腺専門医として普通に診療していますので、心配は要りません。